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しろがね つばさ
 白銀の翼
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 新しい店は、やはり高耶の好みにぴったりとはまったらしい。
 オープンして間もないということで、たまたま親しくしているその店のオーナーも詰めており、直江も久しぶりに挨拶をすることができた。
 たらふく食べて店を出る前に、遅くなってしまったからと高耶が家に電話を入れると、なんと譲が出た。
 何も言わずに学校から消えた高耶は、行方不明扱いになっていたらしい。
 怒る譲の後ろにあきれた声をだす千秋までいる。
 心配させた侘びということで、直江はオーナーに頼んで譲と美弥に(千秋には無いらしい)お土産を包むことにした。


「げ、また降って来やがった」
 店を出ると、大粒の雪が降り出していて、すでにうっすらと積もり始めていた。
「本当ですね、傘を借りてきましょうか?」
 駐車場までは少し距離がある。店に予備の傘くらいはあるはずだ。
「こんくらい平気だろ。それより明日もまたバイク乗れね──うわっと!!」
 高耶の足がつるりと滑った。慌てて直江の手が出る。
「あ、わりい」
「いいえ」
 腕を掴むのではなく腰ごと抱え込んだところに自分の疾しさが現れてしまった、と思った。
 下心を悟られたのではないかと高耶をちらりと横目でみるが、さして何かを気にしている様子はない。
「飛行機はもう着いたかなー」
 高耶は、たぶん食事の間もずっと気にしていたであろうことを口にした。
「きっと今頃、ご友人の夢枕にでも立って昔話に花でも咲かせているんじゃないですか」
「だといいけどな……っと!」
 と、またしても高耶の足元がぐらついた。
 今度は腕だけを掴んで支える。
「わりぃ、わりぃ。この靴滑り易くって」
「いっそのこと手でも繋ぎましょうか?」
「ばか、それだとよけーに歩き難いんだよ」
(そういう問題でもないのだが)
 ポイントのずれた高耶のつっこみに苦笑いしていると、どうも滑ったのを笑われたと勘違いしたようで、高耶の矛先が急にこちらを向いた。
「お前こそこんな日に革靴なんてご法度だろ。これだから都会育ちはな。お高い靴が汚れちまうぜ?」
と言うからふたりして直江の足元に注目すると、まるで赤絨毯を歩いてきたかのように泥ひとつついていない。
「コツがあるんですよ」
「……あっそ。なんかつまんねぇ」
 高耶は口を尖らせると、空から降ってくる雪を見上げた。
「雪が積もって嬉しいのなんてガキだけだよなー」
 そういいながら、高耶はさほど嫌そうには見えない。
 美弥が雪だるま作りたいとか言いそうだなー、などと言いながら笑みを浮かべている。
 何かいい思い出でもあるのだろうか。そのまま何も言わなくなる高耶の隣を、直江も黙って歩いた。
 雪の中をふたりで歩いていると、様々なことを思い出す。
 以前に景虎と降りしきる雪の中を歩いたのは一体いつのことだっただろうか。
 彼の頭や肩に積もる雪がどうしても気になってしまって、自分の着ていたものを傘代わりにした記憶がある。
 去年の雪の頃は、こうしてふたりで歩くことすら想像もしていなかった。
「あ、やべえ。スポーツニュース始まっちまう」
「ほら、急ぐとまた転びますよ」
「そう何度もコケるかっての」
 そう言っているそばから足元がぐらついている。
 オレンジジュースで酔ってしまったのだろうか。
 直江はいつでも手が出せるようひそかに身構える。
 今年はきっとあと何度か高耶と雪を楽しむ機会が持てるだろう。
 冷え込む外気と反比例するように、直江の胸の内は暖かくなった。




  □ 終わり □
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01         更新日2009年10月30日
02  03  04  更新日2009年11月06日
05  06      更新日2009年11月13日
07  08      更新日2009年11月20日
09         更新日2009年11月27日
10  11      更新日2009年12月4日
        










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