しろがね つばさ
白銀の翼
「飛行機の憑喪神?」
直江が言うには、何でも飛行場に夜な夜な現れる飛行機の幽霊がいるらしい。
「まあ、そうなりますかね」
勝手に離発着するジェット機があるというのだ。
直江も戦時中墜落した戦闘機が飛行する霊障なんていうのは聞いたことがあるらしいが、ジェット機というのは初めてだそうだ。
「そいつがなんか悪さをしてるわけ?人を乗せて飛び立って、そのまま帰ってこないとか」
「いえ、まだそこまで具体的にわかってはいません。そういう現象があるというだけで」
「そっか」
人的被害がないと聞いて、高耶は内心気が抜けてしまった。
(こんなの、軒猿の仕事だよな)
でなきゃ千秋にでも任せればいいのに。直江がわざわざ宇都宮から来ることもない。
なんとなく、直江の行動の裏に意図を感じつつも、
(まあいっか)
高耶は無理やり納得した。
パーキングエリアを見に行ったついでなのだろうし。自分はウマい飯が食えるわけだし。
それにその勝手に飛び回っているジェット機の陰には、また苦しんでいる魂があるのかもしれない。
なら、自分が行く意味はある。できる限りのことをしよう。
そう考えながらもあまりに暖かい車内でうとうとし始めたところで、もう空港に着いてしまった。
実は来たことがなかったのだ高耶は、思った以上に近くてびっくりだ。
「ここかあ」
山間とは思えないようなだだっ広い平地がそこには広がっていた。
空港だから当たり前なのだが、併設されている公園設備が更に開放感を感じさせる。
溶けきらない雪が、まだあちらこちらに残っていた。
平日の午後であるせいか、人の姿も殆ど見えない。
冷たい風がびゅうびゅうと吹き抜けていく。
寒いな、と思うより早く、直江が自分の上着を高耶の肩にかけてきて、更にその風から庇うようにして立った。
「まずは聞き込みですね。いきましょう」
直江のそういう行為にすっかり慣れきってしまった高耶は、まるでそれが当たり前のような顔でターミナルビルへと入っていった。
「景虎様」
飲食店のほうを聞き込んできた直江が、足早に戻ってきた。
ビル内に入ってからは二手に分かれて、例によって雑誌記者などを名乗って聞き込んでまわってみたのだが。
「どうでした」
「駄目だな」
引退したジェット機の幽霊らしい、とか、夜中に離発着する大きな音が聞こえるらしい、とかあいまいな噂話は聞けたが、肝心の目撃証言は得られなかった。
「その離発着の音をきいたというのは、どうやら売店の女性のようですね」
家が近所の彼女は、たまに夜中に大きな音が聞こえるのだと言っていたそうだ。
しかし彼女がその音を訴えても、家族や近所の人間にはまるで聞こえないのだという。
「少し、霊力の強い方のようでした」
その力を敏感に察した雑霊や何かが、彼女に数体くっついていたそうだ。
けれど、彼女にしてみても被害といったらせいぜいその音のせいで寝不足になるということくらいのようだ。
「後は、滑走路の霊査ができりゃあな」
さすがに雑誌記者の肩書きではそこまで入り込めないから暗示を使っての潜入となる。
しかし、高耶はそこまでする必要がないと思った。
「被害がねえのに、わざわざそこまでしなくてもいいだろ。こんだけ近いんだし、もし何かあればオレと千秋とでまた来るさ」
「そうですね」
直江もそれで納得したようだ。
「では、今日のところは戻りましょうか」
結局直江の予想通り、早めの夕飯となりそうだった。
直江が言うには、何でも飛行場に夜な夜な現れる飛行機の幽霊がいるらしい。
「まあ、そうなりますかね」
勝手に離発着するジェット機があるというのだ。
直江も戦時中墜落した戦闘機が飛行する霊障なんていうのは聞いたことがあるらしいが、ジェット機というのは初めてだそうだ。
「そいつがなんか悪さをしてるわけ?人を乗せて飛び立って、そのまま帰ってこないとか」
「いえ、まだそこまで具体的にわかってはいません。そういう現象があるというだけで」
「そっか」
人的被害がないと聞いて、高耶は内心気が抜けてしまった。
(こんなの、軒猿の仕事だよな)
でなきゃ千秋にでも任せればいいのに。直江がわざわざ宇都宮から来ることもない。
なんとなく、直江の行動の裏に意図を感じつつも、
(まあいっか)
高耶は無理やり納得した。
パーキングエリアを見に行ったついでなのだろうし。自分はウマい飯が食えるわけだし。
それにその勝手に飛び回っているジェット機の陰には、また苦しんでいる魂があるのかもしれない。
なら、自分が行く意味はある。できる限りのことをしよう。
そう考えながらもあまりに暖かい車内でうとうとし始めたところで、もう空港に着いてしまった。
実は来たことがなかったのだ高耶は、思った以上に近くてびっくりだ。
「ここかあ」
山間とは思えないようなだだっ広い平地がそこには広がっていた。
空港だから当たり前なのだが、併設されている公園設備が更に開放感を感じさせる。
溶けきらない雪が、まだあちらこちらに残っていた。
平日の午後であるせいか、人の姿も殆ど見えない。
冷たい風がびゅうびゅうと吹き抜けていく。
寒いな、と思うより早く、直江が自分の上着を高耶の肩にかけてきて、更にその風から庇うようにして立った。
「まずは聞き込みですね。いきましょう」
直江のそういう行為にすっかり慣れきってしまった高耶は、まるでそれが当たり前のような顔でターミナルビルへと入っていった。
「景虎様」
飲食店のほうを聞き込んできた直江が、足早に戻ってきた。
ビル内に入ってからは二手に分かれて、例によって雑誌記者などを名乗って聞き込んでまわってみたのだが。
「どうでした」
「駄目だな」
引退したジェット機の幽霊らしい、とか、夜中に離発着する大きな音が聞こえるらしい、とかあいまいな噂話は聞けたが、肝心の目撃証言は得られなかった。
「その離発着の音をきいたというのは、どうやら売店の女性のようですね」
家が近所の彼女は、たまに夜中に大きな音が聞こえるのだと言っていたそうだ。
しかし彼女がその音を訴えても、家族や近所の人間にはまるで聞こえないのだという。
「少し、霊力の強い方のようでした」
その力を敏感に察した雑霊や何かが、彼女に数体くっついていたそうだ。
けれど、彼女にしてみても被害といったらせいぜいその音のせいで寝不足になるということくらいのようだ。
「後は、滑走路の霊査ができりゃあな」
さすがに雑誌記者の肩書きではそこまで入り込めないから暗示を使っての潜入となる。
しかし、高耶はそこまでする必要がないと思った。
「被害がねえのに、わざわざそこまでしなくてもいいだろ。こんだけ近いんだし、もし何かあればオレと千秋とでまた来るさ」
「そうですね」
直江もそれで納得したようだ。
「では、今日のところは戻りましょうか」
結局直江の予想通り、早めの夕飯となりそうだった。
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白銀の翼