しろがね つばさ
白銀の翼
青白かった高耶の顔色は、車内に入っていくらか血色が良くなった。
先程まで心にあったものは、忘れてしまったのか、うまく折り合いつけられたのか、すっかり元の調子を取り戻したようだ。
怪我のいきさつをなんとなく聞かされて、直江は高耶がここらあたりでは本当に伝説的な存在になっているのだな、と改めて思った。
それも当然だと思う。
景虎とはいつ、どこにいたってそうなのだ。憎たらしいくらいに彼らしい。
「なあ、どこ向かってんだ」
思考が沈みかけていた直江は、高耶に問われて我に帰った。
「バイト、お休みなんでしょう?付き合って欲しいところがあるんです」
「いいけど。なんでバイトねえって知ってるんだよ」
「スタンドに寄ってきたからですよ」
ここに来る前、給油ついでに今日は高耶が出勤かどうかを尋ねてきたのだ。
「主任さん、出来の悪い"従兄弟"がお世話になっているからと差し入れをしたら、来週の予定まで教えてくれましたよ。ずいぶん長々と話し込んでしまいました」
お仕事の邪魔だったかもしれませんねぇ、と直江はうそぶく。
「主任のやつ……」
当たり前かもしれないが、車にもバイクにも詳しいバイト先の上司を、高耶は敬愛しているようだった。が、あのお喋り好きだけは頂けないらしい。まあ、その人懐っこさがあのGSの明るい雰囲気をつくり上げているのだが。
「そういえばスタンドに寄る前に、例の祠とパーキングエリアにも寄って来たんですよ」
「………ああ、あの?」
以前にあった交通事故絡みの事件で舞台となった場所のことだ。高耶はあれ以来、足を運ぶことはなかったが。
「ええ。雑木林の方は、あのあと急激に植物の勢いが衰えたとかで、随分と乾いた空気になっていましたよ。それから、サービスエリアの祠には例の白いアネモネが供えてありました」
「そっか………。仲良くやってんのかな」
「彼らなら、大丈夫でしょう」
「………ああ」
また、あの時のことを思い出して沈んでしまうかと思われた高耶だったが、意外にしっかりとしていて、すぐに話題を切り替えてきた。
「で、今日はどこいくわけ」
高耶も、精神的に随分成長したということだろうか。
「実は最近、松本空港で変わった霊象が目撃されていまして」
「ふんふん、空港ねぇ」
何かと理由をつけては松本へやってくる直江に最初はぎゃあぎゃあ言っていた高耶ももう何とも思ってないようだ。それはそれで多少寂しい。
「………そんで、終わったらどうする?夕めしは?食ってく?」
それどころか最近では付き合えばタダで飯を食わせてくれるお兄さん(?)扱いである。まあそれはそれでまた、多少嬉しい。
「今からだと夕飯を食べ終える頃にはかなり遅くなってしまいそうですね。美弥さんは大丈夫なんですか」
「今日は女友達とデートだとか言ってたから」
「そうですか。それでは……甲府の方で懇意にしている店のオーナーが、松本駅の近くに新たに出店したそうなので覗いてみましょうか」
「へぇ、何の店?」
「いわゆる鉄板焼きですね。肉から魚介、旬の野菜までなんでもありますよ」
「……いいね」
直江に向かってニヤリと笑ってみせる。こういうときの高耶は仕事が速い。夕飯食べたさに霊感も冴え渡り、あっという間に原因も判明するだろう。
先程まで心にあったものは、忘れてしまったのか、うまく折り合いつけられたのか、すっかり元の調子を取り戻したようだ。
怪我のいきさつをなんとなく聞かされて、直江は高耶がここらあたりでは本当に伝説的な存在になっているのだな、と改めて思った。
それも当然だと思う。
景虎とはいつ、どこにいたってそうなのだ。憎たらしいくらいに彼らしい。
「なあ、どこ向かってんだ」
思考が沈みかけていた直江は、高耶に問われて我に帰った。
「バイト、お休みなんでしょう?付き合って欲しいところがあるんです」
「いいけど。なんでバイトねえって知ってるんだよ」
「スタンドに寄ってきたからですよ」
ここに来る前、給油ついでに今日は高耶が出勤かどうかを尋ねてきたのだ。
「主任さん、出来の悪い"従兄弟"がお世話になっているからと差し入れをしたら、来週の予定まで教えてくれましたよ。ずいぶん長々と話し込んでしまいました」
お仕事の邪魔だったかもしれませんねぇ、と直江はうそぶく。
「主任のやつ……」
当たり前かもしれないが、車にもバイクにも詳しいバイト先の上司を、高耶は敬愛しているようだった。が、あのお喋り好きだけは頂けないらしい。まあ、その人懐っこさがあのGSの明るい雰囲気をつくり上げているのだが。
「そういえばスタンドに寄る前に、例の祠とパーキングエリアにも寄って来たんですよ」
「………ああ、あの?」
以前にあった交通事故絡みの事件で舞台となった場所のことだ。高耶はあれ以来、足を運ぶことはなかったが。
「ええ。雑木林の方は、あのあと急激に植物の勢いが衰えたとかで、随分と乾いた空気になっていましたよ。それから、サービスエリアの祠には例の白いアネモネが供えてありました」
「そっか………。仲良くやってんのかな」
「彼らなら、大丈夫でしょう」
「………ああ」
また、あの時のことを思い出して沈んでしまうかと思われた高耶だったが、意外にしっかりとしていて、すぐに話題を切り替えてきた。
「で、今日はどこいくわけ」
高耶も、精神的に随分成長したということだろうか。
「実は最近、松本空港で変わった霊象が目撃されていまして」
「ふんふん、空港ねぇ」
何かと理由をつけては松本へやってくる直江に最初はぎゃあぎゃあ言っていた高耶ももう何とも思ってないようだ。それはそれで多少寂しい。
「………そんで、終わったらどうする?夕めしは?食ってく?」
それどころか最近では付き合えばタダで飯を食わせてくれるお兄さん(?)扱いである。まあそれはそれでまた、多少嬉しい。
「今からだと夕飯を食べ終える頃にはかなり遅くなってしまいそうですね。美弥さんは大丈夫なんですか」
「今日は女友達とデートだとか言ってたから」
「そうですか。それでは……甲府の方で懇意にしている店のオーナーが、松本駅の近くに新たに出店したそうなので覗いてみましょうか」
「へぇ、何の店?」
「いわゆる鉄板焼きですね。肉から魚介、旬の野菜までなんでもありますよ」
「……いいね」
直江に向かってニヤリと笑ってみせる。こういうときの高耶は仕事が速い。夕飯食べたさに霊感も冴え渡り、あっという間に原因も判明するだろう。
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白銀の翼