しろがね つばさ
白銀の翼
(くそっ……)
ただでさえイラついていたというのに、しまいにはあの教師だ。
たぶん世の中にはどうしようもない人間ばかりで、思いやりを持つ人間なんていうのは奇跡に近いのではないだろうか。
自分のモノサシでしか人を見ることが出来ない人間たち。そのモノサシがどれだけ歪んでいて非常識なものなのか、振り返ることもしない。
それとも、自分が間違っているのだろうか。
人のことなど考えずに、自分のことだけを考えて生きることが正解なのだろうか。
オレも自分のモノサシを、他人に押し付けているだけなのだろうか。
(寒い……)
冷たい風が吹き抜けていく。
上着を教室に置いてきたせいだけでなく、心が酷く寒かった。
「───こらっ」
不意に背後から聞こえてきた声に、反射的にびくっと身体を揺らす。ただ歩道を歩いていただけで、別に悪いことをしているわけではないのに。習慣とは恐ろしいものだ。
恐る恐る振り返って、そこにあったのは、
「直江……。なにやってんだよこんなとこで」
思わずぽかんとする高耶を見下ろす、よく見慣れた顔だった。
「あなたこそまだ授業の時間でしょう?サボタージュですか」
「……いいだろ、別に」
驚きで一瞬消えていた感情を、また思い出してしまう。
俯いてしまう高耶の顔を覗き込むようにして、直江が首をかしげた。
「怪我、してますね」
直江が自分の口のところを指差す。
「こんなの怪我のうちにはいんねーよ」
高耶は口元をゴシゴシと擦る。
「舐めてあげましょうか?」
直江はいたずらっ子のような瞳で言った。
不意に高耶の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。紙で切った自分の指を、舐めてくれた母親の姿。
「………お前はオレの親父かよ」
へそを曲げたように言ったら、
「それはちょっと、傷つきますよ」
いくら年の差があるとはいえ、さすがの直江も父親扱いされる歳ではない。
見るからにしょげる直江をみて、高耶は思わず吹き出した。
高耶に笑顔が戻って安心したのだろうか。
直江も笑みを浮かべて言う。
「あなたを迎えに来たんです。早めに来て正解でしたね、入れ違うところでした」
いきましょう、と車へと促されて気付く。
直江の愛車は、随分と離れた場所に停められていた。
あそこで待っていたはずの直江は、自分の姿を見つけてずっと後を追ってきていたのだろうか。
普通じゃない様子の高耶に、なんて声を掛けるべきか、悩みながら?
「……………」
気を、使わせてしまったのかもしれない。
もうすっかり慣れたウィンダムの助手席に乗り込むと、車内はとても暖かかった。
隣に座る直江を見ながら、高耶は思う。
直江が傍らにいることは、日常よりも身体に馴染む、と。
ただでさえイラついていたというのに、しまいにはあの教師だ。
たぶん世の中にはどうしようもない人間ばかりで、思いやりを持つ人間なんていうのは奇跡に近いのではないだろうか。
自分のモノサシでしか人を見ることが出来ない人間たち。そのモノサシがどれだけ歪んでいて非常識なものなのか、振り返ることもしない。
それとも、自分が間違っているのだろうか。
人のことなど考えずに、自分のことだけを考えて生きることが正解なのだろうか。
オレも自分のモノサシを、他人に押し付けているだけなのだろうか。
(寒い……)
冷たい風が吹き抜けていく。
上着を教室に置いてきたせいだけでなく、心が酷く寒かった。
「───こらっ」
不意に背後から聞こえてきた声に、反射的にびくっと身体を揺らす。ただ歩道を歩いていただけで、別に悪いことをしているわけではないのに。習慣とは恐ろしいものだ。
恐る恐る振り返って、そこにあったのは、
「直江……。なにやってんだよこんなとこで」
思わずぽかんとする高耶を見下ろす、よく見慣れた顔だった。
「あなたこそまだ授業の時間でしょう?サボタージュですか」
「……いいだろ、別に」
驚きで一瞬消えていた感情を、また思い出してしまう。
俯いてしまう高耶の顔を覗き込むようにして、直江が首をかしげた。
「怪我、してますね」
直江が自分の口のところを指差す。
「こんなの怪我のうちにはいんねーよ」
高耶は口元をゴシゴシと擦る。
「舐めてあげましょうか?」
直江はいたずらっ子のような瞳で言った。
不意に高耶の脳裏に幼い頃の記憶が蘇る。紙で切った自分の指を、舐めてくれた母親の姿。
「………お前はオレの親父かよ」
へそを曲げたように言ったら、
「それはちょっと、傷つきますよ」
いくら年の差があるとはいえ、さすがの直江も父親扱いされる歳ではない。
見るからにしょげる直江をみて、高耶は思わず吹き出した。
高耶に笑顔が戻って安心したのだろうか。
直江も笑みを浮かべて言う。
「あなたを迎えに来たんです。早めに来て正解でしたね、入れ違うところでした」
いきましょう、と車へと促されて気付く。
直江の愛車は、随分と離れた場所に停められていた。
あそこで待っていたはずの直江は、自分の姿を見つけてずっと後を追ってきていたのだろうか。
普通じゃない様子の高耶に、なんて声を掛けるべきか、悩みながら?
「……………」
気を、使わせてしまったのかもしれない。
もうすっかり慣れたウィンダムの助手席に乗り込むと、車内はとても暖かかった。
隣に座る直江を見ながら、高耶は思う。
直江が傍らにいることは、日常よりも身体に馴染む、と。
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白銀の翼