しろがね つばさ
白銀の翼
6時限目が始まっても高耶は不貞寝を決め込んでいる。
そして、事件は起きてしまった。
出席を取り始めた教師が、高耶のその態度にキレたのだ。
以前から高耶とは折り合いの悪かった教師だ。
「仰木。………仰木!返事くらいしないか!」
まずは寝ている高耶の頭頂部に、いきなり出席簿を叩きつけた。
「……ぁあ?」
殴られて起こされた高耶はますます機嫌が悪い。
「呼ばれたら返事をするなんて、猿でも出来るぞ、猿でも!」
そう言って怒鳴りつけた教師は、顔を上げた高耶のケンカ傷に気付いたらしい。
「なんだ、その傷は。揉め事でも起こしたんじゃないだろうな!」
高耶はくだらない、とばかりに顔を背けてしまった。無視を決め込むつもりのようだ。
そこへ教師が信じられない一言を放った。
「ああ、アル中の父親に殴られでもしたか」
「なっ!!!」
あまりにひどいと譲が抗議する前に、猛然と高耶が立ち上がった。勢いで椅子が横に転がる。
拳を握り、ものすごい勢いで睨みつけてくる高耶に、教師は若干ひるみつつ、それでもまだ口を閉じない。
「な、なんだ、殴るのかっ。やっぱり、カエルの子はカエルだなっ」
「……………」
憎憎しげに教師を睨んでいた高耶は、そのまま何も言わずに教室の出口へと歩き出した。
「高耶っ」
立ち上がって後を追おうとした譲はその場で立ち止まる。
高耶の背中が後を追われることを拒絶していた。こういう時の高耶は何を言っても駄目だと譲は知っている。
(高耶………)
唇を噛む譲の耳に、ひどすぎるよ、と小さな声が聞こえてきた。見れば沙織が首を振りながら呟いている。千秋も、矢崎も、皆苦虫を噛み潰したような顔だ。
「ったく。どうしようもないな、仰木は。成田、座りなさい。授業を始めるぞ」
そう言いながら教壇へ戻っていく教師は、生徒全員から注がれる軽蔑の視線に気付くことはない。
譲は、高耶の握った拳の白さが、いつまで経っても頭から離れなかった。
くだらないくだらないくだらない……
高耶は心の中で呪文のようにその言葉を唱えていた。
怒りと悲しみと諦めとが波となって、交互に押し寄せてくる。
その波を静めるように。
くだらないくだらないくだらない……
高耶はいつも通りに朝起きて、いつも通りに家を出ただけだったのだ。
ああ、バイクが使えなくてだりぃ、とか、でも今日はバイトがない日で逆にラッキーだったか?、とか、そんなことを考えながら、歩いていたのだ。
それなのに。
家を出て少しも経たない内に、3人の他校生が自分を囲んできた。
明らかに高耶の家を調べてやってきたそいつらは、何故か美弥の名前を出してきて、美弥の学校もクラスも知っているからいつでも手をだせるのだ、というようなことをいいだした。それで、思わずキレてしまったのだ。
別にケンカが好きな訳じゃない。父親に殴られていた時期もあった高耶だ。昔はそれでもスカッとする、とか思っていたものだが、最近《調伏》活動をするようになって、暴力の非情さを思い知った。出来れば争い事など避けて通りたい。
けれど、世間はそうさせてくれないのだ。
自分の思うようには、自分を見てくれない。
自分の考えるようには、物事を捉えてくれない。
そう言う人間は、自分の言葉を言葉どおりにすら受け取ってくれない。
そして、事件は起きてしまった。
出席を取り始めた教師が、高耶のその態度にキレたのだ。
以前から高耶とは折り合いの悪かった教師だ。
「仰木。………仰木!返事くらいしないか!」
まずは寝ている高耶の頭頂部に、いきなり出席簿を叩きつけた。
「……ぁあ?」
殴られて起こされた高耶はますます機嫌が悪い。
「呼ばれたら返事をするなんて、猿でも出来るぞ、猿でも!」
そう言って怒鳴りつけた教師は、顔を上げた高耶のケンカ傷に気付いたらしい。
「なんだ、その傷は。揉め事でも起こしたんじゃないだろうな!」
高耶はくだらない、とばかりに顔を背けてしまった。無視を決め込むつもりのようだ。
そこへ教師が信じられない一言を放った。
「ああ、アル中の父親に殴られでもしたか」
「なっ!!!」
あまりにひどいと譲が抗議する前に、猛然と高耶が立ち上がった。勢いで椅子が横に転がる。
拳を握り、ものすごい勢いで睨みつけてくる高耶に、教師は若干ひるみつつ、それでもまだ口を閉じない。
「な、なんだ、殴るのかっ。やっぱり、カエルの子はカエルだなっ」
「……………」
憎憎しげに教師を睨んでいた高耶は、そのまま何も言わずに教室の出口へと歩き出した。
「高耶っ」
立ち上がって後を追おうとした譲はその場で立ち止まる。
高耶の背中が後を追われることを拒絶していた。こういう時の高耶は何を言っても駄目だと譲は知っている。
(高耶………)
唇を噛む譲の耳に、ひどすぎるよ、と小さな声が聞こえてきた。見れば沙織が首を振りながら呟いている。千秋も、矢崎も、皆苦虫を噛み潰したような顔だ。
「ったく。どうしようもないな、仰木は。成田、座りなさい。授業を始めるぞ」
そう言いながら教壇へ戻っていく教師は、生徒全員から注がれる軽蔑の視線に気付くことはない。
譲は、高耶の握った拳の白さが、いつまで経っても頭から離れなかった。
くだらないくだらないくだらない……
高耶は心の中で呪文のようにその言葉を唱えていた。
怒りと悲しみと諦めとが波となって、交互に押し寄せてくる。
その波を静めるように。
くだらないくだらないくだらない……
高耶はいつも通りに朝起きて、いつも通りに家を出ただけだったのだ。
ああ、バイクが使えなくてだりぃ、とか、でも今日はバイトがない日で逆にラッキーだったか?、とか、そんなことを考えながら、歩いていたのだ。
それなのに。
家を出て少しも経たない内に、3人の他校生が自分を囲んできた。
明らかに高耶の家を調べてやってきたそいつらは、何故か美弥の名前を出してきて、美弥の学校もクラスも知っているからいつでも手をだせるのだ、というようなことをいいだした。それで、思わずキレてしまったのだ。
別にケンカが好きな訳じゃない。父親に殴られていた時期もあった高耶だ。昔はそれでもスカッとする、とか思っていたものだが、最近《調伏》活動をするようになって、暴力の非情さを思い知った。出来れば争い事など避けて通りたい。
けれど、世間はそうさせてくれないのだ。
自分の思うようには、自分を見てくれない。
自分の考えるようには、物事を捉えてくれない。
そう言う人間は、自分の言葉を言葉どおりにすら受け取ってくれない。
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白銀の翼